堀こどもクリニック

Menu

2020/08/31 ワクチンを受けよう!

予防接種で防げる病気をよく知ろう! その1   四種混合、ヒブ、小児用肺炎球菌、B型肝炎

安全な社会は、ワクチンによってコントロールされている

それぞれのワクチンで防ごうとしているのがどんな病気か、よく考えたことがありますか? ヒブワクチンって髄膜炎になるみたい、麻疹(はしか)も怖いと聞くけれど、周りでかかった人の話も聞かないし…? みずぼうそうは自分たちが子どもの頃はみんなかかっていたし、そんなに心配する必要はないのでは? 

いえ、そんなことはありません! ワクチンがなかったほんの数十年前まで、百日ぜきやジフテリア、麻疹、ポリオや日本脳炎などの感染症で多くの子どもたちが亡くなっていました。これらはみんな、ワクチンや治療薬のない今の新型コロナウイルス感染症のようなものだったのですよ! 

近年のワクチンの普及でこれらの感染症は減少して身近な存在ではなくなり、実感としてその病気が怖いというイメージを持っていない方が多くなりました。でも、多くの感染症が未然に防がれ、子どもたち誰もが当たり前のように感染症の不安なく元気に成長しているこの安全な社会は、ワクチンによってコントロールされているのです。

ここでは、ワクチンで防げる病気がまだ流行していた時代にどのような状況があったのかをまとめて見ました。

百日ぜき(四種混合ワクチン)

百日咳菌による気道感染で、特有な発作性、けいれん性の咳(痙咳)が数週間から2~3ヶ月続きます。成人は軽症ですが、6ヶ月未満の乳児では無呼吸、痙攣、呼吸停止から死亡することがあります。また肺炎や脳炎の合併もあります。1950年以前は年間10万人以上がかかり、死亡例も2000人近くいました。その後ワクチン導入で減少しましたが 全菌体ワクチンによる脳症の問題で1975年に一時中止され、1979年には届出数1万3千人、死亡数20~30人と再流行 になりました。1981年の新ワクチン導入で再び減少に転じましたが、最近成人患者が増加して50%を超える年もあります。2007年には香川大学で学生、教職員290名という大規模な集団感染も発生しました。

これは乳幼児期のワクチンの効果の減弱、百日咳の特有な咳症状の発現に発病から1~2週間以上かかること、症状の軽い成人例が長引くカゼ、気管支炎、喘息の疑い、マイコプラズマ等の診断のまま「感染源」となるためです。欧米では既に年長児以降の追加型三種混合ワクチンが導入されつつありますが、日本ではまだ検討中です。

当院でも2008年に約40人の患者さんを診断、両親や祖父母から赤ちゃんへの感染が心配です。 経胎盤移行抗体では発病を防げないため新生児期からでも感染しますので、四種混合ワクチンは対象となる生後3ヶ月になったらすぐに接種して下さい。

百日咳の典型的な咳き込み(レプリーゼ)

ポリオ(急性灰白髄炎)(四種混合ワクチン)

糞便からの経口感染でヒトからヒトにだけ感染します。ほとんどは不顕性感染ですが、 1000~2000人に1人くらい半身四肢の弛緩性麻痺を起こし、まれに呼吸筋麻痺から死亡します。日本では 1960年に5千人以上の患者が発生しましたが、翌年に生ワクチンの緊急輸入で流行は終息し、1963年から国産生ワク チンの定期接種が導入され、1980年の1例を最後に野生株による発生はありません。1994年の北南米に続いて2000 年には日本を含む西太平洋地域でも根絶宣言が出されましたが、東南アジアやアフリカなどではまだ患者発生が見られます。生ワクチンでは約400万回に1回/年間1~2人のポリオ様麻痺の発生が見られるため、ポリオの根絶された先進国では不活化ワクチンが一般的で、日本でも2012年から不活化ポリオを加えた四種混合ワクチンが導入されています。

破傷風(四種混合ワクチン)

破傷風菌は芽胞の形で世界中の土壌中に存在し、日常生活上で接触を断つことは不可能です。芽胞が傷口から侵入し酸素に触れない傷の中で発芽、増殖して感染を起こし、神経毒である破傷風毒素により全身の強直性けいれんを起こし、呼吸筋麻痺などから死亡します。ワクチンにより患者数、死亡数とも減少していますが、現在でも年間数十人の発生(死亡率20~50%)が見られます。小児期のワクチンの効果は年とともに減弱しますが、基礎免疫がある場合は怪我をした時のトキソイドの追加接種で発症防止効果が期待できます。また、予め10年毎くらいに追加接種を行うと持続的な予防効果も期待できます。

ジフテリア(四種混合ワクチン)

ジフテリア菌により喉頭部の偽膜形成による呼吸困難や窒息、毒素による心筋炎からの突然死を起こし、致死率は5~10%です。国内では1945年に8万6千人の届出(約10%が死亡)がありました。その後ワクチンにより著減し、 最近は年間数例以下となりました。しかし旧ソ連圏では1990年の政権崩壊でワクチン供給不足等から大流行が発生しました。5年間で12 万5千人が罹患、4千人以上が死亡という大惨事になり、接種率の低下による流行の危険性が再認識されました。

b型インフルエンザ菌(Hib)ワクチン(アクトヒブ)

インフルエンザ菌は肺炎球菌とともに後鼻腔に常在する病原菌です。副鼻腔炎、中耳炎の他、急性喉頭蓋炎や肺炎、 化膿性髄膜炎や敗血症といった重症感染を引き起こします。この重症感染はb型インフルエンザ菌(Hib=ヒブ)が原因 で、ワクチン導入前は5歳未満の小児の髄膜炎だけで推定毎年400~600人くらい発生し、その8割くらいが2歳以下で した。

ヒブワクチンは1990年代のうちに世界中に普及し、定期接種化された国で重症感染症がほぼ消失しています。優れた効果にも関わらず日本での導入は遅れに遅れ、2008年に任意接種として承認、2013年にようやく定期接種化されました。

既にワクチン導入後数年でヒブによる髄膜炎の発生がほぼゼロにまで減少したことが明らかにされています。

小児用肺炎球菌ワクチン(プレベナー13)

ヒブと同じく後鼻腔に常在する肺炎球菌も、化膿性髄膜炎、敗血症、肺炎、中耳炎などを引き起こします。化膿性髄膜炎の 原因としてはHibに次いで重要で、5歳未満の小児でHibの半数の年間200人くらい発生しています。敗血症や肺炎も含 めた重症感染の大半が4歳以下、特に1歳以下が約6割を占めます。

肺炎球菌ワクチンは2000年に米国で開始され、日本より前に世界100カ国以上で導入されています。ヒブワクチン同様定期接種化された国では重症感染症の著明な減少を認めていますが、肺炎球菌にはいくつもの型があり(プレベナー13は13種類をカバー)、ワクチンに含まれない型の増加も指摘されています。日本でも2010年に発売、2013年から定期接種となりました。標準的な接種時期と回数はヒブワクチンと同じで、四種混合とあわせての同時接種が一般的です。

最近肺炎球菌の抗生剤耐性化が進み、重症感染症はもちろん 中耳炎や副鼻腔炎の治療が厄介になってきていますので、乳幼児期の接種は重要です。

B型肝炎ワクチン 

血液(輸血等)や精液(性交渉)を介して感染し、成人では急性肝炎(一部では劇症肝炎)を起こして治癒します。 しかし小児期、特に3歳以下では持続感染(無症候性キャリア)を起こしやすく、将来そのうち10~15%が慢性肝炎を 発症し、肝硬変や肝癌に移行する可能性があります。1992年にはWHOが全ての出生児にB型肝炎ワクチンの接種を勧告し、現在世界中の乳児における接種率は約75%まで上昇しています。

一方日本では世界に先駆けて新生児へのワクチンとγグロブリンの予防投与が行われた結果、キャリアの母親から赤ちゃんへの垂直感染は激減しましたが、まだ全人口の1%以上がキャリアです。当初はキャリアを減らせばB型肝炎を撲滅できると期待されましたが、最近母子感染予防不成功例の存在、キャリアの父親からの水平感染、唾液や涙が感染源となり得るとの報告、保育所での集団感染の報告など、従来の対策だけでは制圧できないことがわかってきました。キャリアは欧米では0.1%程度ですが、アジア・アフリカでは3~10%、台湾では15~20%と高率です。また最近では性行為で感染し、キャリア化しやすい欧米型の遺伝子型ウイルスが増加してきたこともあり、日本でも2016年10月から生後2ヶ月からの定期接種が開始されました。

任意接種の希望者も増えていますが、熊本地震による製造拠点の被害などから供給が不安定な状態が続き、定期接種以外の受け入れを制限している状態です。もちろん海外留学や長期赴任などの際にはぜひ受けていただきたいワクチンですので、必要な場合にはいつでもご相談ください。

一覧をみる