堀こどもクリニック

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2025/06/09 小児科医からのヒントとトピックス

RSウイルス感染の予防 
モノクローナル抗体薬と母子免疫ワクチン「アブリスボ」について

RSウイルス感染症対策の重要性

RSウイルスは、母体からの胎盤を通じた移行抗体では感染を十分に防げないため、生後1歳までに50%以上が、2歳までにほぼ100%がRSウイルスに感染します。乳幼児における肺炎の約50%、細気管支炎の50~90%がRSウイルス感染症によるとされています。症状は感冒様症状から下気道感染に至るまで様々ですが、特に生後6か月未満で感染すると重症化することが示されています。

一方で、インフルエンザのようなワクチンや抗インフルエンザ薬と言った治療薬はなく、対症的な治療で改善を待つしかありません。

RSウイルス感染による乳児の入院は、基礎疾患を持たない場合も多く(基礎疾患のない正期産児等)、また、月齢別の入院発生数は、生後1~2か月時点でピークとなるため、生後早期から予防策が必要とされています

モノクローナル抗体薬

ワクチンも治療薬もないRSウイルス感染症ですが、唯一、特に重症化リスクの高い未熟児や先天性心疾患等を有する児には、生まれて最初と2回目のシーズンに、モノクローナル抗体製剤のパリビズマブ(商品名シナジス)のシーズン中毎月一回の筋注が唯一の予防手段として用いられてきました。さらに1年前に、同効薬でシーズン1回の筋注で済むニルセビマブ(商品名ベイフォータス)が発売され、これから切り替えが進むものと思われます。いずれも非常に高額で、未熟児や基礎疾患のある児には保険で使用できますが、健康な新生児〜乳児には保険適応はありません。心配しなくても、適応のあるお子さんには、担当の小児科医から接種について必ず説明があるはずです。

シナジスは任意でも使用できませんが、実は後者のベイフォータスは、基礎疾患のない健康な児にも任意接種として使用が承認され、広く普及すればその社会的な疾病負荷の低減が期待できます。しかし、承認時に設定された薬価が極めて高額(最小量なんと50万円弱!)のため、当分このままでは非現実的でしょう。

RSウイルスに対する母子免疫ワクチン「アブリスボ」

ベイフォータスが発売されたのとほぼ同時期の昨年5月末に、全ての新生児〜乳児のRSウイルス感染症の予防に、高齢者ならびに妊婦を接種対象とするRSウイルスワクチン、「アブリスボ」が発売されました。高齢者については項を改めることにして、ここでは妊婦への接種による母子感染の予防について紹介いたします。

はじめに「母体からの胎盤を通じた移行抗体では感染を十分に防げない」と書きましたが、一方で高い血中中和抗体を有していると重症化予防効果が認められます。RSウイルス感染症は、一般的に初回の感染時の症状が最も強く、繰り返し感染することにより症状が軽くなる傾向があるのは、そのためです。

アブリスボは、妊娠後期の妊婦に接種し、母体での抗体産生を促して移行免疫を増やし、少なくとも生後6ヶ月までの感染や重症化を有意に低下させる効果が認められて、承認されました。接種の推奨タイミングは、添付文書では妊娠24〜36週となっていますが、28週以降の方が有効性が高いとされています。

(抗体産生には時間が必要ですので、早産などで接種から2週間以内に生まれてしまうと、十分な効果が期待できない可能性があります。)

これまでのデータでは、接種による局所の疼痛や腫脹は少なめで、発熱の頻度も低いようです。妊娠の経過や生まれた児への安全性についても現在のところ問題なく、日本小児科学会、日本産婦人科学会、⽇本周産期・新生児医学会などから、母子免疫ワクチン接種への期待が表明され、多くの医療機関で接種受け入れが始まっています。任意接種の費用は30000万円から35000円程度のところが多いようです。抗体薬に比べれば‥とは言え、開発から年数も経過し、定期接種として大量に生産されているようなワクチンに比べれば、気軽にどうぞとは勧めにくい費用です。が…、実は静岡県袋井市、千葉県いすみ市で、令和7年4月から新規に母子手帳を発行した方を対象に半額程度を公費助成が開始されました。今後各地に助成が広まる可能性に期待したいと思います!

(実は、RSウイルスワクチンにはもう一種類2024年1月に発売された「アレックスビー」というものがあります。こちらは対象は高齢者のみで、妊婦への接種は認められていません。高齢者への接種は主に内科系で、妊婦への接種は主に産婦人科医や小児科で行われるものと思われますが、両方のワクチンを扱う医療機関で接種を行う場合には、間違えないよう注意が必要です。

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