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2025/11/21 ワクチンを受けよう!小児科医からのヒントとトピックス

高齢者を対象とするワクチンが増えています!

高齢者を対象とするワクチンの増加

ワクチンといえば、主にこどもが対象です。その多くは、成人でも子どもの頃にかかっていなかったり、接種していなかったワクチンがあれば、任意接種として受けることはできます。一方、長い生涯の間に多くの感染症を経験している高齢者は、通常多くの感染症への免疫を獲得していることもあり、最近までワクチン接種の対象としては重要視されてきませんでした。

高齢者へのワクチンの定期接種は、インフルエンザワクチンが2000年の予防接種法の改正で導入されたのが最初です。その理由はいくつかあります。その少し前に、小児に行われていたインフルエンザワクチンの集団接種の効果に疑問が呈され、集団接種は中止され、接種率は激減しました。しかしその後、インフルエンザの大きな流行やそれに伴う脳症の多発があり、全年齢への接種の勧奨が再開されるとともに、高齢者の入院/死亡リスクを低減させることが確認されたために導入されました。

その後、インフルエンザワクチンと同様な位置付けで肺炎球菌ワクチンが定期接種化され、コロナのパンデミックでは高齢者はハイリスク集団として積極的な接種が行われてきたのはご存知の通りです。そして最近新たに帯状疱疹予防ワクチンが定期接種(一部自己負担)として導入され、さらにまだ任意接種ではありますが高齢者へのRSウイルス感染予防ワクチンも販売が開始され、高齢者へのワクチン接種も当たり前の時代に入った感があります。

インフルエンザワクチン

定期接種の対象:65歳以上の方   ( 任意接種の対象:全年齢 )

毎年 10月1日から1月末までの間に1回

費用(令和7年度上田市の場合、以下同様) 1300円 (令和6年度)

「かかったことがない」とか、「カゼだから、かかったらかかったで…」と、あまり心配もされていない方も多いですね。最近では、タミフルなどの抗インフルエンザ薬も気軽に使えるので、余計に軽視されがちな気もします。けれども毎冬の流行期には、「老人ホームで院内感染が発生し、○人死亡」と言ったニュースが報道されるように、体力や免疫力が低下したり、心疾患や慢性の呼吸器疾患のある高齢者にとっては決して侮ることはできません!

インフルエンザワクチンは、1回の接種で、およそ30〜60%の感染予防効果、80%の重症化防止効果が期待できます。(ワクチン株と実際の流行株がどの程度一致しているかで変わります。)  定期接種で自己負担も少額なので、ぜひ多くの高齢者に、特に心不全、慢性閉塞性肺疾患、膠原病やがんの治療で免疫の低下状態のある方など、そして何もなくても年齢が高くなればなるほど、受けて欲しいものです。

新型コロナワクチン

定期接種の対象:原則65歳以上

毎年 10月1日から1月末までの間に1回

費用 4500円 (令和7年度)

コロナワクチンの効果については多くの報告が出ていて、それぞれの有効率にも幅があります。ざっくり言えば、「感染防止効果は低いが、重症化防止効果は間違いなくある」というところでしょうか。

したがって、デルタ株までの死亡率が高く、特に若い人の重症化が多かった時期には「すべての年代の人に」勧められ、軽症化して感染力が高くなったオミクロン株以降「個人の判断で」となってきたのもうなづけます。

しかし、です…

コロナが5類に格下げされた2023年5月から2024年8月までのコロナでの死亡者数は44000人に上ります。その大部分は65歳以上の高齢者です。一方、インフルエンザの死亡者数は3〜4000人〜多くて1万人程度ですので、高齢者の重症化は今も決して軽視はできません。

コロナに対する治療薬も、インフルエンザに対する抗インフルエンザ薬ほどの効果は期待できません。したがって、秋から冬にかけての時期に、インフルエンザワクチンと合わせてコロナワクチンの接種も受けた方が(少なくとも受けないより)良いと考えます。

肺炎球菌ワクチン

定期接種の対象:65歳になる年に1回 (今のところ、生涯に1回のみ)

費用 自己負担:2000円 (令和7年度)

肺炎は、日本人の死亡原因の第4位で、ざっと年間10万人が亡くなっています。肺炎の起因菌の中で最も多いのが肺炎球菌で、特に高齢者の侵襲性肺炎球菌感染症の死亡率は19%との報告もあります。そこで2014年から、高齢者への肺炎球菌ワクチンが定期接種として導入されました。

肺炎の原因は肺炎球菌以外にもあり、また肺炎球菌自体にも莢膜型という種類が数多くあり(*)、このワクチンを打てば簡単に肺炎に罹らなくて済む…というわけにはいきませんが、受けておいた方が安心なワクチンではあります。副作用としては、一般的に見られる局所の腫脹や疼痛、時に倦怠感や発熱が見られますが、多くはありません。

なお、定期接種としては今のところ1回のみですが、ワクチンの効果はそれほど長くないとされ、接種から5年以上経過したら追加接種を行うことができます。(短い間隔だと局所の反応が強く起こる可能性があり5年以内の再接種はできません。)ただし、現在のところ2回目以降の接種をどのようにしたら良いのかの明確な指標がなく、今後の課題となっています。

* 定期接種に用いられる23価のワクチン(商品名「ニューモバックス」)ではそのうち23種類をカバーしています  

小児に用いられる肺炎球菌ワクチン「プレベナー13または20」も、最近65歳以上の高齢者への使用が認められ、任意接種として接種可能となっています。実は、「ニューモバックス」より「プレベナー」の方が効果の持続が長いとされていますが、現在のところ定期接種で受けられるのは「ニューモバックス」のみです。

帯状疱疹予防ワクチン

定期接種の対象:令和7年4月1日~令和8年3月31日の間に、65歳、70歳、75歳、80歳、85歳、90歳、95歳、100歳を迎える方、100歳以上の方。

        今年が初年度のため、経過措置として、上記の間の年齢の方については上記の年齢に達する年に対象となります。

費用と接種回数 自己負担額(令和7年度)

    弱毒生ワクチン:2400円  1回

    不活化ワクチン:6400円  2ヶ月以上の間隔をおいて2回(6ヶ月以内が望ましい)

帯状疱疹とこどもがかかる水痘(みずぼうそう)は同一のウイルスによる一連の感染症です。こどもの頃に水痘に罹患した際に、そのウイルスが脊髄後根の知覚神経説に潜伏感染の状態で残ります。通常は体の免疫力により抑えられているウイルスが、加齢や疲労、免疫を低下させるような疾患や治療により再活性化し、知覚神経を伝ってその分布範囲に痛みを伴う水疱を生じるのが帯状疱疹です。

特徴は、神経の分布範囲に沿って出現する紅斑や水疱で、皮膚症状が出現する前にその部分の知覚異常(ピリピリした痛みなど)を感じることもよくあります。最初は湿疹やかぶれと思って様子を見ているうちに、だんだん広がり、痛みが強くなり、受診することが多いです。放置しても自然経過で治ってはきますが、1〜2週間はかかり、その後もしばらく痛みが残ることがしばしばあり、これは高齢者ほど多く見られます。ちょっと触れただけでも強い痛みがいつまでも続き、ペインクリニックを受診し、神経ブロックを行ったり、鎮痛剤の投与を続けたりするようなこともあります。中には、出現した下肢の麻痺を伴った患者さんを見たこともあります。

最近は直接ウイルスの増殖を抑える抗ヘルペス薬が開発されており、初期から服用すれば悪化を防いだり、治るまでの期間を短くし、痛みが残りにくくなります。もし帯状疱疹を疑ったら、1日でも早い受診をお勧めします。(発症から3日以内の治療開始が望ましいとされています。)もちろん、数日の治療の遅れが大きく経過に影響するので、ワクチンにより発症を防げればそれに越したことはありません。

また近年は、こどもへの水痘ワクチンが定期接種化されて水痘の流行が抑えられきたため、かかったことのある人が周囲の患者さんと接触してウイルスに曝露され、その都度免疫が強化される(ブースター効果)機会が減っています。このような状態が続くと、今後さらに帯状疱疹を発症する人が増える可能性もあります。

帯状疱疹に有効なワクチンには2種類あります。1つは、こどもの水痘感染の予防に用いられる弱毒生ワクチンです。小児がんの治療など免疫抑制状態で水痘にかかると重症化し、亡くなる事もあり、それを防ぐために日本で開発されたワクチンです。免疫抑制状態のお子さんに接種してもワクチンに用いたウイルス自体で重症化しないよう慎重に弱毒化されたウイルスを用いて開発された極めて優れたワクチンですが、その分予防効果は6割程度とはやや低めです。接種後の副反応は少なく、安全性は高いですが、生ワクチンなので免疫状態の低下した方には接種できません。

もう一つが最近開発された帯状疱疹不活化ワクチン(商品名「シングリックス」)です。最近マスコミ等で取り上げられているのはこちらのワクチンです。不活化ワクチンなので、免疫の低下している方にも接種できます。2回接種ですが、有効率は9割以上とされ、生ワクチンより長期に高い効果が期待できます。接種後に接種部の腫脹や痛み、人によって倦怠感や発熱などを伴うことがありますが、コロナワクチンほどではありません。ちなみに、私自身はこちらを接種しました。定期接種でも1回に6400円と費用がかかりますが、任意で受けるとなると一般的に20000円以上かかるため、これでもずいぶん負担が少なく済みます。ぜひ、定期接種の対象の間に接種を受けてください!

RSウイルス感染予防ワクチン

RSウイルス感染症といえば、インフルエンザと並んで乳幼児の「カゼ」症候群の中でも最も重要なものです。毎年冬を中心に流行を繰り返し、特に乳児期の感染では重症化しやすいのが特徴ですが、実は高齢者にも重症化の問題があります。乳幼児以外ではこれまであまり重要視されてきませんでしたが、最近高齢者、特に慢性の心疾患や呼吸器疾患のある方、がんの治療や糖尿病などによる免疫の低下のある方などでは、肺炎や呼吸不全による入院や死亡リスクが高くなることが明らかになってきました。しかも、インフルエンザのような特異的な治療薬もありません。そんな中で、昨年1月に「アレックスビー」、そして5月に「アブリスボ」と、相次いで2種類のRSウイルス感染の予防ワクチンが発売され、話題になっています。

いずれも60歳以上の高齢者で、気管支喘息や慢性閉塞性肺疾患(COPD)などの慢性呼吸器疾患、慢性心不全、高齢による体力低下を含む種々の原因により免疫状態の低下した方などが対象となります。接種は一回(筋肉注射)で、任意接種なので費用は25000円から30000円程度のようです。自分は該当しそうという方は、折りを見て主治医に接種の適応についてご相談してみてください。短期的な効果は高いとされていますが、まだ長期的な効果の持続については今後の検証が必要と思われます。

なお、前回の特集記事でご紹介した妊婦への接種で乳児期の重症化の予防が期待される「アブリスボ」ですが、令和7年11月18日付で、来年4月から定期接種化される見通しになったことが報道されました。対象は妊婦さんだけですが、接種の普及により効果についての知見がより早く積み重ねられることも期待されます。

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