堀こどもクリニック

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2020/08/31 アレルギー科待合室の皆さんへ

ぜんそくのキホン! その2

そろそろ秋風を感じる季節となりました。秋といえば、「食欲」「読書」「実り」「スポーツ」…そして小児科医が真っ先に思い浮かべるのは「喘息」です! なぜなら気温や気候の急な変化、ホコリやダニの増えた寝具を使い始めるなど複数の要因が重なって、喘息発作が最も好発するのが9月から11月の秋だからです。「ぜんそくのキホン」第二弾は、運動誘発ぜんそくの予防を中心に、喘息のお子さんがスポーツや行事を存分に楽しめるようなポイントをまとめてみました。

喘息と運動~特に水泳との関係は? 

喘息のお子さんを持つお母さん方からよく聞かれるのが「喘息には水泳が良いって本当ですか?」「水泳をすると喘息は治るんですか?」といった質問です。なぜこのような話になるかというと…水泳は最も喘息発作を起こしにくい運動だからです。

喘息の患者さんでは運動により発作が誘発される「運動誘発ぜんそく」がよく見られます。体育や部活の前に準備運動で校庭を走っていたら急に咳き込んでゼーゼーして苦しくなったり、夢中になってはしゃいでいたらコンコン咳が止まらなくなったりします。これは運動による過換気で気管支の粘膜から水分が蒸発したり、気化熱により気管支の表面が急に冷えたりすることが刺激となり発作が誘発されるからです。そこでマラソンやサッカーなど連続して走る運動ほど起きやすく、インターバルのある運動では起きにくく、高湿度の環境で行う水泳は水分の蒸発も気管支表面の冷却も起きないため最も発作を起こしにくい運動なのです。

今から20~30年前には発作を繰り返して運動どころではないお子さんが多かったので、発作を起こしにくい水泳で安心して運動を行い体力をつけることが勧められました。当時全国的に盛んだった「喘息キャンプ」では水泳が恒例の行事でしたし、私自身佐久病院時代に設立した「東信地区小児喘息親の会」でも、当初の目玉の一つがスイミングスクールとの提携でした。「喘息には水泳」という定説にはこのような経緯があるのです。けれども最近は吸入ステイロイド薬等の治療の進歩で重症な喘息が減少し、治療によりコントロールができれば好きなスポーツを選択できる時代になっています。

野球でもサッカーでもしたいと思うスポーツは何でもさせてあげて下さい。そのかわり、それに打ち込むためには喘息をきちんとコントロールすることが不可欠です。ぜひ自分で薬の管理がきちんとできるようにしてくださいね!

「運動誘発ぜんそく」予防の実際 

  • 準備運動(ウォームアップ)をきちんと! : 準備運動がわりのいきなりのランニングは避けましょう。まずは体操やインターバルトレーニング、軽いジョギングなどを行い、徐々に強度の高い運動をすると運動誘発ぜんそくが起きにくくなります。また規則正しく運動を続けていると、同じ強度の運動をしても徐々起きにくくなることも知られています。
  • 寒い季節のマスク : 冬の運動時に外気に慣れるまでマスクをして運動すると発作が起きにくくなります。普段あまり運動をしないお子さんにお勧めです。
  • 運動前のインタール吸入での予防 : インタール(クロモグリク酸)という吸入薬は、自身が喘息だった英国のアルトーニアン博士が自分の発作に様々な物質の効果を試すうちに発見した成分から作られました。1971年に発売された極めて安全性の高い薬剤で、定期的な吸入でアレルギー性の喘息に予防効果があります。また運動前に吸入すると、気管支拡張効果はないにも関わらず運動誘発ぜんそくを予防できます。ガイドラインでは、運動誘発ぜんそくの予防に携帯用の気管支拡張剤の吸入が推奨されていますが、心理的な依存や頻回使用による副作用のリスクもあり、個人的にはお勧めしていません。それに比べてインタールは予防効果で遜色はなく、過剰使用による副作用の心配もなく、朝の運動、昼間の体育、午後や夜の部活それぞれの前に毎日、何年使っても大丈夫です。小児だけでなく、高校/大学生や成人の運動誘発ぜんそくにも同様に有効です。 
  • 日頃からの喘息のコントロール : 運動誘発ぜんそくは、喘息の調子が悪いとちょっとした運動でも誘発される一方、調子の落ち着いているときには起きにくくなります。日頃から吸入ステロイド薬等による治療をきちんと行って良好なコントロール状態を保つことが、最も効果的な予防対策でです。

(注:とても残念なことに、2019年11月から製造上の問題のため製造が中断されており、2020年6月に周囲の薬局の在庫がなくなりました。製造再開時期はまだ未定です。)

旅行や高原学習等の学校行事で慌てないよう

旅行や宿泊のある行事では、環境の変化などから普段より発作が起きやすくなります。夏休みになると県外から遊びに来て喘息の発作で受診されるお子さんをよく見かけます。また学校行事の高原学習や登山、修学旅行で発作を起こすお子さんも珍しくありません。このような折角の機会を苦い思い出にしないよう、少し前から予防薬を増やす、普段使っていない気管支拡張剤を旅行中予防的に用いる、登山や海外旅行などでは短期のステイロイド薬の持参などの対策が考えられます。

もし家族と一緒でない場合には薬の管理についても準備が必要です。本人や普段の状態を知らない同行者には状況による追加治療の判断が難しいので、より安全を見積もった予防対策が必要になります。時期や行き先、行程などがはっきりしたら早めにご相談ください。安心して旅行やイベントを楽しんで来られるようにしましょう!

ダニアレルゲン対策の基本

子どものぜんそくの約90%にアレルギーの関与が見られ、その多くはダニ(の死骸や糞)に対するアレルギーです。近年は治療の進歩で以前ほど環境整備に神経質になる必要はなくなりましたが、無用の発作を少しでも減らすために日頃からできることは心がけましょう。

ダニは寝具や敷物(カーペット類)、ソファー等の中に最も多くいます。夏の高温でダニが増殖した寝具や敷物は、涼しくなって使い始める前に洗濯機かクリーニングで一度洗いましょう。布団を干すのも良いですが、ダニは涼しい側に逃げます。布団乾燥機ならある程度死滅しますが、死骸は残ります。そこで時間のあるときになるべく丁寧に掃除機で吸引しておきましょう。

もちろん寝具やソファの上で走り回ったり飛び跳ねたりするのはやめましょう。埃の立つ掃除はお子さんのいない間に済ませ、かけっぱなしのカーテンもたまには外して丸洗いしましょう。

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