2020/08/31 ワクチンを受けよう!
海外渡航時に接種が勧められるワクチンについて
短期の観光旅行ではなく、長期の滞在、主要観光地以外への旅行、留学、海外赴任、調査研究などで渡航される場合には、目的地に関わらず一般的に推奨されるのが破傷風ワクチン(トキソイド)とB型肝炎ワクチンです。東南アジア方面では日本脳炎も対象です。(病気とワクチンの説明はこちら)
それ以外に地域や目的により必要になるのはA型肝炎ワクチン(エイムゲン)、侵襲性髄膜炎菌感染症ワクチン(メナクトラ)、狂犬病ワクチンがあります。
なお、黄熱ワクチンは検疫所以外で接種はできません。また、狂犬病(輸入、国産)と腸チフス(輸入)のワクチンは都市部の予防接種センターで受けられますが、狂犬病ワクチンは流通が少なく早めの計画が必要です。それ以外のワクチンは全て当クリニックで計画から接種まで実施できます。渡航の予定が決まったら、早めにご相談ください。
A型肝炎ワクチン
A肝炎ウイルスは世界中に分布し、糞便やそれに汚染された水や食物からの経口感染で、上下水道の未整備な発展途 上国、特に南アジア、アフリカ、中南米で蔓延しています。世界中で年間約2億人が発症、3万人以上が死亡すると推定 されています。多くは軽症、急性の経過で治りますが、まれに劇症化することがあります。
日本では年間100~200例 程度ですが、その20~30%程度が海外で、その80%近くがアジアでの感染例です。国内感染例の原因は90%以上がカキを含む魚介類ですが、海外感染例ではカキや海産物が半数弱で水と野菜、果物が半数強を占めています。
先進国では流行地への渡航前のワクチン接種が推奨されており、米国では満1歳からの定期接種が導入されています。日本では小児には適応外接種が行われてきましたが、2013年に1歳以上の小児への接種が承認されました。今後流行地への長期滞在、あるいは短期でも衛生状態のよくない奥地や離島などに行く場合にはぜひ接種をお考え下さい。2~4週間隔での2回接種で 2年程度の、さらに半年後の追加接種を行なうと5~10年以上の感染予防効果が期待できます。
侵襲性髄膜炎菌感染症予防ワクチン「メナクトラ」
2011年宮崎県の学生寮での高校生5名の集団発生(1名死亡)で注目された侵襲性髄膜炎菌感染症に対するワクチン「メナクトラ」が2015年5月に国内で発売されました。近年の国内患者数は10名前後にすぎませんが、敗血症や髄膜炎を起こし、重症例では発症後24時間以内に死亡するという進展の早さが特徴です。
サハラ砂漠以南のアフリカに多くみられますが、無症候性の鼻咽頭保菌者は稀ではなく、世界各国で散発的な発生が見られます。特に10歳台、学生寮の新入生に多いという傾向があります。
今回のワクチンは2005年の承認後、世界55カ国に導入され、米国では11~12歳の定期接種となっています。日本での当面の対象はアフリカ中部への渡航者、留学で寮生活の予定者、警察学校生や一部の自衛隊員等となりますが、今後認知の普及により寮生活やそれに準じる集団生活を行う学生等への接種が広がる可能性があります。(当クリニックでも毎年数名の接種を行なっています。)
狂犬病ワクチン
日本国内では1957年以降人、イヌとも発症例はありません。(*) 世界ではアジア、南米、アフリカを中心に流行し、年間6万人程度が亡くなっています。狂犬病清浄地域とされるのは英国、アイルランド、アイスランド、ノルウェー、スウェーデン、オーストラリア、ニュー ジーランド、ハワイなど限られています。
感染源のほとんどはイヌですが、コウモリ、サル、キツネ、アライグマなど からの感染もあります。発病後の治療法はなく、死亡率は100%です。
ワクチンによる予防は可能ですが、基礎免疫の有無にかかわらず曝露(咬傷)後接種は不可欠です。曝露後接種は、咬傷の当日(遅くとも3~5日以内)から計5回 (日本では6回)の接種です。曝露前接種は2~4週間隔で2回、さらに6ヶ月以上おいて3回目を接種すると3~5年の基礎免疫ができ、2~3回の曝露後接種でよいとされます。
曝露前接種は1回では無効、2回接種しておくと曝露後接種までに1週間程度の猶予ができるため、ワクチンを入手しにくい国や地域(かなりの郊外や離島)に行くには最低2回の接種が推奨されます。ただし咬傷後の接種回数は同じですし、接種してあるからと受傷後の医療機関受診までに時間を無駄にしてはいけません。一般的には常時ワクチン接種が可能な都市部への旅行程度では事前接種の必要はありません。
(*)2020年5月に、国内では14年ぶりとなる狂犬病が発生し、マスコミでも取り上げられていました。フィリピン人の方で、受傷は来日数ヶ月前とのことで、国内で感染したわけではありません。ただ国内のペットに対する接種率が低下傾向にある上、最近の新型コロナウイルス感染症の拡大により集合接種が延期や中止になった地域もあるようなので、この機会に接種率の低下に歯止めがかかって欲しいと思います。