堀こどもクリニック

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2020/08/31 小児科待合室の皆さんへ

子どもの便秘~たかが便秘と侮るなかれ

たかが便秘と侮るなかれ…泣き叫び、冷や汗をかくくらいの腹痛を訴えて来院するお子さんも珍しくありません。浣腸で時には信じられないような塊のウンチが出たりして、とたんにけろっと元気に帰っていきます。
でも、それで一安心、とは思ってはいけません。そこまで出なかったのは、実は普段から便秘がちだったのに気づかなかっただけかもしれません。

普段から2~3日に一回しかでない、毎日は出るが兎のようなコロコロしたウンチがちょっとずつ、いつも大泣きをして顔を真っ赤にしていきんでいる、排便時にお尻を痛がり、お尻を拭いたら血がついていた、と言った便秘の相談は日常診療ではありふれたことです。
「お尻の穴にイボのようなものができている」との相談もよくありますが、これは「見張りいぼ」と呼ばれるもので、その下に隠れた部分を広げてみると、しばしば裂創が見つかります。そしてたぶんと思って聞くと、実は前から便秘気味で…という話になります。
「見張りいぼ」は、繰り返し切れた部分の周囲の皮膚が腫れて形成されるもので、慢性の便秘の反映なのです。

今回は、このような辛い思いをすることがないように、乳幼児期の便秘について知っておいてほしいことに触れたいと思います。

便秘の始まりが最も多いのは乳児期後半です!

令和1年6月26日の朝日新聞の生活欄に四段抜きで大きく取り上げられた記事が「子どもの便秘 0歳から注意を」です。
記事によると、誰もが安心して排泄できる環境作りに取り組むNPO法人「日本トイレ研究所」(そんな組織があったんですね!)が行った調査で、便秘状態の子どもの症状が気になり出した時期で最も多かったのが「6ヶ月以上、1歳未満」の30.2%、ついで「6ヶ月未満」の23.3%との結果が紹介されていました。
実は記事では生後1ヶ月や3ヶ月検診など、早い段階からの対応についての談話がありましたが、その点については少し違和感があります。乳児期前半の便秘は、便がべったり粘稠になるために出にくいだけのことが多く、単に肛門刺激のコツを覚えれば大抵の場合対処は難しくないからです。

さて本当の意味での便秘が始まるのは、多くの場合生後半年から1歳過ぎの頃です。離乳食の開始とともに腸の消化吸収の機能が発達し、大腸で便中の水分の吸収がよくなりだんだん形のある便になってきますが、その経過には体質や環境などから個人差が大きく、水分の吸収が少し良すぎると便が硬くなり、出にくくなるからです。

慢性の便秘は悪循環の結果です

便秘も、初めのうちは便の性状も変化が大きく、しばらく硬めだったかと思うと、一旦柔らかい便が続いたりすることもあります。
そこでついつい「まだ大丈夫かな」と思っていたり、「浣腸には頼らない方がよいと聞いて」とか、「食事や水分摂取を心がけてなんとかでているうちは、なるべく薬には頼りたくない」といった思いで様子を見ているケースが少なくありません。
また、指先等で押せばへこむ粘土のような硬さなので大丈夫と思っていても、握力だけで粘土を握りつぶすのが難しいように、肛門括約筋部で便を細くできずに太い便を苦労して出していることもあります。
そうこうしてるうちにつらい痛みを繰り返し経験すると、便意を催したり硬い便がちょっと出ただけで残りを我慢してしまったり、その結果さらにたまった便が出る時にはもっと痛い思いをするという悪循環になります。
さらに便秘が続いて直腸に便のたまった状態に慣れてしまうと余計に便意を催しにくくなり、慢性化につながってしまうのです。

「浣腸はクセになる」は誤解です!

どうしてそう言われるようになったのかはわかりませんが、便秘でご相談に来られるお母さん方からよく聞くのは「浣腸はクセになる」とか「浣腸に頼らない方がよい」というご心配です。
たしかに、便秘自体の治療を行わないままいつまでも、「出なくて困ったら浣腸すれば」というのは管理方針としてはお勧めできません。
でもそれは浣腸自体の問題より、辛い思いをしている便秘の状態を放置していることが問題なのです。

前項で説明したように、慢性の便秘は悪循環の結果です。本当に大事なことは排便に対する心理的な不安を習慣化させないことと、直腸に便がたまることが常態化して便意を催しにくくなるのを防ぐことです。
そのためには、下剤の服用で柔らかい便がなるべく毎日出るように治療を行いつつ、一定の効果が得られるまでに出にくい状況があれば、早めに浣腸して苦しい思いをしないようにすることです。
治療がうまくいけば、自然に浣腸をしたりする必要はなくなるのです。

便秘治療の基本方針!

まだ便の性状が一定せず、硬かったり、柔らかかったりの状態であれば、いきんでも出にくい、あるいは硬めの便を少ししただけでやめてしまったり、といった状況があったら浣腸を考慮してください。(「綿棒浣腸」という俗語もあるようですが、綿棒で刺激しても浣腸液を使ったように滑りは良くならず、出る苦しさには変わりありませんよ!)
もし自信のない方は、気軽にご相談下さいね。

硬い便が断続して、繰り返し強くいきんだり、痛そうに泣いたり、排便後に血がついたりするようなことがあったら、早めにご相談下さい。
排便困難時には浣腸や刺激性下剤の座薬を使用し、やむを得ない時には摘便(指で硬くなった便塊をかき出す)も行いつつ、定期的に下剤を服用して便秘の改善を図ります。

治療薬として最も広く用いられているのは腸内の水分を増やす働きのある酸化マグネシウム製剤で、耐性(慣れ)もなく長期に安全に用いることができます。
でも、頑固な慢性の便秘になると、なかなか単独ではスムーズな排便が得られない場合もあります。そのような時に併用されるのが、大腸を刺激してぜん動を亢進させる働きのあるピコスルファート(商品名:ラキソベロン/シンラック)です。
一日一回指示の滴数をコップ一杯程度の水に滴下して服用します。成人に用いる他の刺激性下剤に比べて耐性を生じにくいとされ、必要により滴数の調節をしながら継続することもあります。

さて、これらの治療薬に加えて、令和1年末から2歳以上のお子さんには新しく「モビコール」というお薬が使えるようになりました。主成分はマクロゴールという高分子ポリマーで、簡単に言うとこの成分が一緒に飲用した水分をそのまま腸管から吸収させずにとどめることにより、便中の水分量が投与量に比例して増えて便が柔らかくなるという原理です。
効果も期待でき、そのまま体には取り込まれず排出されてしまうため長期に安全に使用可能で、小児の慢性便秘治療の第一選択薬になっていく可能性があります。
当クリニックでも既にかなりのお子さんに用いていますが、効果も実感でき、治療の選択肢が増えてとても助かっています。

これらの治療の組み合わせにより、なるべく排便時につらい思いをさせず、毎日自然な排便を促して、経過を見ながら年齢とともに解消していくのを待ちましょう。
一旦慢性化した便秘は治療を中断するとすぐに戻ってしまうことも多く、時には数年の治療が必要なこともあります。焦らず、根気よくお付き合いして下さいね。

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