堀こどもクリニック

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2020/08/31 アレルギー科待合室の皆さんへ

ぜんそくのキホン! その1

当クリニックで専門としているアレルギーの分野の中でも、最も重要な疾患は気管支喘息です。
急な発作で呼吸困難を起こして入院することもある急性疾患の代表であり、最近でも年間の死亡者数は2000人近くにのぼります。(当院が開院した1993年頃は年間で交通事故死に匹敵する6000~7000人でしたので、それでもかなり減少していますが…。)
同時に、年余にわたり慢性に発作を繰り返す慢性疾患の代表でもあり、乳幼児から高齢者まで広い年代でみられ、国内の患者数は数百万人と言われます。
この気管支喘息の経過は治療管理により大きく左右されますので、ここでは専門医の立場から知っておいて欲しいことに触れておきたいと思います。

「ぜんそく」とは?

最初に、子どものぜんそくも大人のぜんそくも、病気としては一緒です。慢性の気道炎症が徐々に発生し、その結果気道が過敏な状態になり、そこにホコリなどのアレルゲンを急にたくさん吸入したり、タバコや花火などの煙を吸ったり、 激しい運動をしたり、 風邪を引いたり、といった様々なことがきっかけとなり「発作」を起こします。
「発作」といっても、ちょっとした咳から、だんだん喘鳴(息を吐く時にゼーゼー、ヒューヒュー)を伴い、息苦しさを感じるようになり、ひどくなると陥没呼吸(のど仏の下や肋骨のすき間やお腹がぺこぺこへこむようになる)がみられ、歩くのもやっと、横になって眠れない(起坐呼吸)ような状態になります。
「発作」は自然に、又は治療により軽快しますが、背景の気道過敏性は常にあるので、このような症状を繰り返すことになります。

症状や経過の個人差は大きく、咳だけ続き喘鳴を伴わない(咳型喘息)ような人、季節の変わり目に時々発作のある人、一年を通じて繰り返す人、慢性でも軽い人がいる一方、頻度は少ないのに起きる時は急にひどくなりやすい人など、様々な経過があります。

小児期の喘息は、咳が長引いたり、カゼがきっかけで喘鳴を伴い、「気管支炎」「喘息性気管支炎」と言われたりしているうちに、2~3歳頃から季節の変わり目、特に秋からだんだんはっきりしてくる傾向があります。「気管支が弱い」と言われる場合もありますが、この表現には体質というニュアンスがあり、喘息が疑われる状況をやんわり伝えるものです。
小児喘息の治療・管理ガイドラインでは、5歳以下のお子さんについて「3回以上の呼気性の喘鳴」を認め、気管支拡張剤の吸入で改善が認められた場合に「乳幼児喘息」と診断するとされています。吸入の効果がはっきりしない場合には、次の項目にある長期管理薬を1ヶ月程度使用し、治療中に症状の改善が見られ、中止による再燃が見られた場合には、やはり「乳幼児喘息」と診断します。(診断的治療)
早めに診断や治療を勧める主な理由は、喘息は発作を繰り返すたびに気道の炎症が慢性化し、気道過敏性が亢進し、次の発作が起きやすくなるという悪循環病なので、なるべく早く治療することですこしでも悪化を食い止めることにあります。

「ぜんそく」治療の基本的な考え方

喘息の治療は、一時的に症状が悪化した時の治療(発作治療薬ないし短期追加治療薬)、日頃からの発作の繰り返しを防ぐ予防の治療(長期管理薬)、発作のきっかけを減らす日常生活の注意が基本です。

a. 発作時の治療/短期的な悪化時の治療

一時的な悪化時には気管支拡張剤を使います。急な発作時には機械式ネブライザーでの気管支拡張薬の吸入(メプチン®やベネトリン®)や、噴霧式定量吸入器(注1)(メプチンエアー®やサルタノールインへラー®など)での吸入が行われます。
全身的な影響が少なく、即効性もあり、広く用いられていますが、効果の持続は短時間です。

そこで症状が軽いうち、または吸入で一時抑えた後に用いられるのが、内服や貼付で用いる気管支拡張薬です。
メプチンドライシロップ®(プロカテロール)やホクナリン®(ツロブテロール)テープやテオドール®(注2)(除放性テオフィリン製剤)などが用いられます。
吸入薬ほどの即効性はありませんが、一日を通じて効果が得られるので、発作の再燃や遷延化を防ぐ役に立ちます。

注1:メプチンエアー®等の定量吸入器は、とても手軽に使える反面、安易に使われがちです。”味をしめると”、「これさえあれば」と他の面倒な治療は怠り、結果的に発作の増加や時として救急での受診のタイミングの遅れから取り返しのつかない喘息死につながることさえあります。当院では、ぜんそくという病気やその治療のことをきちんと理解された患者さん以外への安易な処方はなるべく行わないようにしています。

注2:テオドール®というお薬はカフェインに近い成分で興奮性があるため、2歳未満の乳幼児や熱性痙攣の既往のあるお子さんには勧められません。
発作時の治療のもっとも肝心な点は、少しでも症状の軽いうちに始めることです。喘鳴や息苦しさがはっきりしてからではなく、咳が出始めて”ピンと来たら”すぐに開始して下さい。

b. 長期管理の治療

症状が長引いたり毎月のように繰り返すようになると、予防的な治療が必要です。
乳幼児期に広く用いられるのは気道の炎症を抑えるロイコトリエン拮抗薬という薬です(シングレア®/キプレス®、オノン®など)。
もしその効果が不十分で発作を繰り返すようになると、吸入ステロイド薬(パルミコート吸入液®、フルタイド®、キュバール®他多数)の適応です。

幼児期では吸入器などが必要ですが、5~6歳になると小さな定量吸入器の使用が可能で、導入が容易になります。
吸入ステロイド薬は喘息治療の柱として用いられる最も強力な予防薬で、注意して使えば安全に長期使用が可能なで、その普及とともに発作での入院や死亡例が著明に減少しました。
なお、アレルギーの関与のはっきりしている場合や、運動誘発喘息が目立つ場合にはより安全性の高いインタール®という吸入薬も有用です。

喘息では「発作」は氷山の一角です。水面下には慢性の気道炎症という頑固で治りにくい部分があり、その炎症を抑えていく予防の治療こそが喘息治療の本質と言える大事な部分です。
これらの予防薬は、安定した状態が続くかどうかを確認しながらゆっくり減量や休薬を考えます。
喘息は秋に多く、冬になると落ち着き、春以降結局また再燃ということもよくあり、1年前の経過なども参考にする必要があります。
一見調子が良いように思われても、指示を守って定期的に使用して下さい。

「カゼ」の咳と「ぜんそく」の咳の違いは? 迷ったらどうする?

しばしば聞かれる質問です。
一般的に「カゼ」の咳に特徴はありませんが、「ぜんそく」の咳は決まった時間、特に就寝時や起床時に急に咳き込みが止まらなくなったりします。急に走り回るなど、激しい運動で(小さなお子さんでは、大泣きや大笑いでも)誘発されることも特徴です。
一方で熟睡すると、安静にすると、時間がたつと自然におさまり、変化が大きいのも特徴です。
カゼでひどい咳をしている時には、たとえ夜の方が多いことはあっても「昼間は出ない」というほど極端な昼夜の差はありません。

もちろんそんなにきれいに区別できるとは限りませんが、ひとつ覚えておいた欲しいのは、「ウイルス感染が大部分を占めるカゼの咳をすぐに治せる薬はない(インフルエンザは例外ですが)けれど、ぜんそくならぜんそくの薬を使えば早めに効く(または悪化を防げる)可能性がある」「そのうえ、カゼもしばしばぜんそくの引き金になる」ということです。
よく、咳が出ているのに手元にある喘息の薬の残りを迷って使わないまま来院されるケースがありますが、熱がなく咳が気になったら「迷わずぜんそくの薬を使い、効果を見ながら受診」して下さい。「ぜんそくではないかも」と治療が遅れたことにより長引いたり悪化したりするのはとてもつまらないことです。
「ぜんそくでしょう」と診断されたら、予備の薬をいつも手元に残しておきましょう。また、旅行等の際も必携です。

「ぜんそく」の診断とアレルギー検査

子どものぜんそくでは、ホコリやダニ、一部ではペットのアレルギーが症状の悪化の原因となっている場合が少なくありませんので、アレルギー検査を行い環境整備を心がけることも大事ですが、検査でぜんそくの診断はできません。ホコリやネコのアレルギーでアレルギー性鼻炎になっても、気道過敏性がないためぜんそくにならない人もたくさんいるからです。
喘息の診断は、気管支拡張剤など治療に反応する可逆性と、そのような症状を反復することによる臨床診断です。診断の第一歩は「疑ったら治療してみる」ことです。

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