2020/08/31 子どもと新型コロナウイルス感染症
小児の新型コロナウイルス感染症に関する医学的知見のまとめ
小児の新型コロナウイルス感染症に関する医学的知見の現状
2020年5月20日に、日本小児科学会から小児の新型コロナウイルス感染症に関する医学的知見(2020年5月18日時点)をまとめた資料が公表されました。以下に、その要旨を抜粋し、補足として背景となるデータなどを提示してみました。成人例と異なり感染者が少なく重症例も少ないこと、インフルエンザと異なり、学校や保育所でのクラスター(集団感染)がほとんど見られないこと、妊娠・分娩に関する懸念は少ないこと、新型コロナ関連健康被害は今後大きな問題になりうることなどが重要な点です。
新型コロナウイルス感染症患者の中で小児が占める割合は少なく、その殆どは家族内感染である。
日本国内では 5 月 27 日 の時点で 10 歳未満の患者総数は 278 人(1.7%)、10~19 歳では 390 人(2.4%) とわずかです。
19歳までの人口が17%なので、かなり少ないことがわかります。
また、子どもへの感染拡大のほとんどが家族内感染で、「子どもから大人」、「子どもから子ども」の伝播の報告は極めて少ないこともわかっています。
現時点では、学校や保育所におけるクラスターはないか、あるとしても極めて稀と考えられる。
オーストラリアの報告で、 15 の学校で生徒9人と職員9人の合計 18 人の患者が 863 人(生徒 735 人、職員 128 人)と濃厚接触があったにもかかわらず、感染が確認されたのは生徒 2 人だけでした。
フランスでは 9 歳の患者が 3 つの学校やスキー学校で有症状のまま 112 名に接触したにもかかわらず、誰にもうつしていなかった事例があります。
4月半ばから限定的に小学校などを再開している欧州でも、学校を介した感染拡大の兆候は見られていません。
日本では、5月末から北九州市の小学校で6人と小規模のクラスターが発生しましたが、そのまま拡大せずに収束し、それ以外に確定された例は今のところありません。
小児では成人と比べて軽症で、死亡例も殆どない。
小児新型コロナウイルス感染症に関する中国・シンガポールからの18論文で1,065症例(うち 0~9 歳は 444 例)を検討した結果、臨床症状は発熱、乾性咳嗽、全身倦怠感、嘔吐、下痢などで、発症後 1~2 週間以内に改善することが多く、0~9歳で集中治療を要した症例は1歳児の1例のみで、死亡例はありませんでした。
ただし、米国から小児の中でも 1 歳未満児と基礎疾患を有する児は入院する頻度が高いとの報告や、中国で3歳未満、3~6歳、6~14歳に分けて比べると3歳未満では比較的症状が重く、3~6歳が最も軽かったとの報告もあり、3 歳未満(特に乳児)では重症化に注意が必要とされます。
なお、世界 25 か国における小児がん患者の調査で 9 例が新型コロナウイルスに罹患していましたが、8 例は無症状か軽症、も う 1 例の詳細は不明だったとのことです。
乳児では発熱のみのこともある。
一方で、他の呼吸器病原体(マイコプラズマ、インフルエンザ、RSウイルスなど)との混合感染が稀ならず見られる。
最近欧米から新型コロナウイルスに関連した川崎病様の症例の報告が注目されていますが、現時点では国内で 新型コロナウイルス感染症の流行に伴って川崎病の発症が増えたり、川崎病症例で 新型コロナウイルス が検出されたりした報告はありません。
新型コロナウイルスは鼻咽頭よりも便中に長期間そして大量に排泄される。
小児新型コロナウイルス患者で経時的に鼻咽頭および便中のウイルスの排泄をPCR検査で追跡したところ、鼻咽頭からウイルスが検出されなくなった後も長期にわたってウイルスが検出される例があり、経過を通じて便中のウイルス量の方が多い傾向にあったことが報告されています。
便中のウイルスに感染性があるかどうかはまだ証明されていませんが、SARSの場合に便からの感染拡大が見られたことからも新型コロナウイルスに関しても糞口感染にも注意が必要となります。
殆どの小児新型コロナウイルス感染症はほとんどの場合、成人と比べて軽症なので、経過観察または対症療法で十分とされている。
罹患妊娠・分娩において母子ともに予後は悪くなく、垂直感染は稀。
しかし、新生児の感染は重篤化する可能性もある。
新型コロナウイルス罹患妊婦についての33の論文をまとめた結果、385 人の妊婦の殆どが軽症で、重症例は 3.6%、非常に重篤だったのは 0.8%でした。
252 人が分娩(帝王切開 69.4%、経腟分娩 30.6%)に至り、出生した 256 人の新生児のうち PCR 陽性が 4 名(いずれも帝王切開出生)いたものの、全例が軽症で退院できました。
以上より、新型コロナウイルス罹患妊婦は非妊娠成人と概ね変わらない症状と重症度であり、出生する児の予後は悪 くないと推定されました。
ただし、新生児では血漿や尿からもウイルスが検出された例や、重症肺炎や敗血症のために人工呼吸やその他の集中管理を受けた例の報告もあり、症例数が少ないため明らかではないが、重症化のリスクを想定しておく必要 はあるとされます。
なお、26例について母乳の検査も行われたましたが、 PCRは全て陰性だったとのことです。
授乳を介する垂直感染を完全に防ぐために人工栄養が行われますが、もし有益性を優先して母乳を与える場合は、母親による適切な感染対策と防護具の実施下での清潔な直接授乳あるいは搾乳手技の指導が必要です。
学校や保育施設の閉鎖は流行阻止効果に乏しく、逆に医療従事者が仕事を休まざるを得なくなるために COVID-19 死亡率を高める可能性が推定されている。
新型コロナウイルスは、小児の感染例が少ないことや、学校や保育現場で小児が感染源となったクラスターの報告が国内外を通じて殆ど見られていない点など、同じパンデミックを起こす呼吸器感染であるインフルエンザとは特筆すべき相違点のあることが分かってきています。
そのため、新型コロナウイルスの流行に学校閉鎖がどの程度有効であるのか、数理モデリングでの研究や考察が報告されています。
その結果をみると、学校閉鎖を行う事はそれ以外のソーシャルディスタンスを保つことに比べて効果は少なく、死亡者の減少は 2~3%に留まる一方、 医療従事者が子どもの世話のために仕事を休まざるを得なくなる事から、医療資源の損失による死亡数の増加の方が問題になると推定されました。
教育・保育・療育・医療福祉施設等の閉鎖が子どもの心身を脅かしており、小児に関しては新型コロナウイルス関連健康被害の方がはるかに大きくなることが予想される。
- 学校閉鎖は、単に子ども達の教育の機会を奪うだけではなく、屋外活動や社会的交流が減少することとも相まって、子どもを抑うつ傾向に陥らせている 。
- 療育施設は否応なしに密な環境でのケアが求められ、一旦新型コロナウイルスが持ち込まれたら、施設内に蔓延してしま いやすい。世界的にも療育施設が閉鎖され、行き場がなくなった医療的ケア児への対応の必要性が訴えられてい る 。
- 就業や外出の制限のために親子とも自宅に引き籠るようになって、ストレスが高まることから家庭内暴力や子ども虐待のリスクが増す事が危惧されているのに、それに対応する福祉施設職員が通常通り就業できていない状況が拍車をかけている。
- ただでさえ「子ども貧困」の問題がクローズアップされていた中、親の失業や収入減のために状況はさらに悪化している上、福祉活動も滞り「子ども食堂」などのボランティア活動も止まってしまっている。
- 乳幼児健診も進まず、こどもの心身の健康上の問題を早期に発見し介入することが出来ず、大きな健康被害やQOL の低下に繋がることも危惧されている。
- 予防接種の機会を逃す子どもが増えている事も大きな問題である。世界的にも1億2千万人近い子ども達が麻疹 ワクチンを接種し損ねることが危惧されていて、これらのワクチンで予防可能な疾患による被害は甚大となる 。