2020/08/31 小児科待合室の皆さんへ
ガイドラインに基づく小児急性胃腸炎の治療とは?
急性胃腸炎は小児科では最もありふれた疾患でありながら、実はその診療方針には十分な科学的根拠が明確にされていない部分が多く、個々の医師の考えや経験に基づく指導が一般的に行われていました。
そんな中、2017年に小児急性胃腸炎の診療ガイドラインが初めて作成/公開されました。
これからはこのガイドラインに基づいた標準的な指導や治療の普及が望まれます。
以下に要点を整理してみましたので、今後お子さんやご家族が(成人でも原則は同じです)罹患した際の参考にして下さい。
( )内は当院でのアドバイスや基本方針です。
診断/検査編
- このガイドラインはウイルス性胃腸炎に対するものであり、まず細菌性胃腸炎を除外する必要がある。
40度以上の高熱、明らかな血便、強い腹痛は細菌性の胃腸炎を示唆する。
(嘔吐を伴わない頻回の下痢に少量でも血便を伴ったら、細菌感染を疑って便の細菌検査や抗生剤服用の必要性について小児科を受診して下さい。) - 適切な初期治療には便の迅速ウイルス抗原検索(ノロ、ロタ、アデノ)による原因の特定は不要である。
(ノロウイルス、ロタウイルス等の迅速抗原検査が必要ではない理由はこちら)
治療その1(経口補水療法)
- 脱水のない、または中等度以下の脱水のある小児急性胃腸炎の初期治療としては経静脈輸液療法(いわゆる点滴治療)より経口補水療法が推奨され、嘔吐や下痢が始まったら速やかに自宅で開始することが推奨される。
ただし、この際用いる経口補水液として国際的な基準に合致する商品はOS-1のみである。
(1~2本のOS-1は、いつも手元に買い置きをしておくことをお勧めします!) - 嘔吐例に経口補水療法を行う場合には5ml(ティースプーン1杯かボトルキャップ3/4程度)を5分ごとに与える。
吐いてしまった場合でも続行して良いが、それでも嘔吐が続いたり状態の悪化があれば医療機関を受診する。 - 脱水がある場合、その治療には必ず経口補水液を用いる。脱水がない場合(脱水の予防)には、経口補水液が飲めなければ塩分を含んだ重湯/おかゆ、野菜スープ、チキンスープ、味噌汁の上澄み(1/2~1/3に希釈)などで代替しても良いが、炭酸飲料、市販の果物ジュース類、甘いお茶やコーヒーなどは避けるべきである。
治療その2(食事療法)
- 急性胃腸炎の乳児に対して、(嘔吐時を除き)経口補水療法中でも母乳栄養は継続すべきである。
- 経口補水療法により脱水が改善されれば、ミルクや食事は早期に開始してよく、長時間の食事制限は推奨されない。
食事の内容も年齢に応じた通常の食事で良い。ミルクは希釈しないことを推奨する。 - 高脂肪の食事や糖分が多い飲料、炭酸飲料は避けることが推奨される。
- 乳糖除去乳は下痢の期間を短縮するとする報告が多いが、その差は小さく、コストと効果のバランスを考慮すると、発症7日以内の急性胃腸炎小児全例に最初から乳糖除去乳を推奨する必要はない。
(ミルクでの哺乳量の多い時期の乳児では下痢の遷延に影響する可能性はあるので、個別にご相談下さい。)
治療その3(薬物療法)
- プロバイオティクス(乳酸菌製剤等)は下痢の期間を短縮させるとの報告があり、副作用の報告はない。
- 止痢薬、止瀉薬の使用は推奨されない。
特に止瀉薬のロペラミド(ロペミン小児用細粒)は副作用の点から6ヶ月未満は禁忌、2歳未満も原則禁忌。
(当院ではロペミン小児用細粒はもちろん、タンナルビン、アドソルビン等の止痢薬は一切使用していません。) - 制吐薬(ナウゼリン、プリンペラン)は有効とする報告はあるが、錐体外路症状(手足等の振戦等)や心電図異常などの有害事象の報告があり、自然治癒する急性胃腸炎に一律に使用する必要はなく、使用する場合には投与量に注意する。
(当院では、嘔吐初期に座薬で1~2回のみとし、それ以上の使用は勧めていません。) - 急性の嘔吐/下痢症の多くはウイルス性の胃腸炎であり、抗生剤(ホスホマイシン等)の使用は推奨されない。
(ウイルス性の胃腸炎に効果も必要性もないばかりか、抗生剤により正常な腸内細菌叢の減少~バランスの乱れが起きて、下痢が遷延しかねません。細菌性の腸炎を疑って便の細菌検査を行うようなときを除き、抗生剤服用は勧められません。)
最近はワクチンの普及とともにロタウイルス胃腸炎は減少し、急な流行の多くはノロウイルス感染症となってきていますが、敢えてどのウイルスが陽性かどうかに拘るより、臨床上はいずれであっても吐物や便の取扱いに十分注意して手洗いや次亜塩素酸での消毒を行うことが肝要です。
登園/登校についての明確な規定はありませんが、食欲が戻って下痢の回数が減り、日常生活に支障がない状態を待って登園/登校して下さい。
そしてしばらくはウイルスの排泄が続くので、オムツの処理や排便後の手洗いはきちんと行いましょう。
保育園や学校の先生方には、胃腸炎の流行が始まったら以上の原則を守り、「ノロ/ロタの検査をしてもらってきて下さい」といった簡易検査の結果が判断の根拠になるような言い方は避けていただきたいと思います。