2020/08/31 ワクチンを受けよう!
予防接種に不安のある方へ
予防接種を受けることに不安を感じている方から、よく聞かれることについてお答えします。
それでもまだ心配、という方は直接お尋ねください。
一度に何種類ものワクチンを接種して大丈夫?
米国では生後2ヶ月で三種混合+ヒブ+肺炎球菌+不活化ポリオ+B型肝炎の5種類と、経口ロタワクチンの同時接種が標準的です。複数ワクチンの同時接種は、接種率の向上や受診負担の軽減のために海外では普通に行なわれており、それにより効果が低下することはなく、個々のワクチンで予想される副作用を超える問題は生じていません。
ほんの10年ほど前まで、新しいワクチンの導入が遅れていたために同時接種を考える必要もなかった日本で当初不安を感じた人が多かったのは当然ですが、世界中の子どもたちにごく普通に行われている医療手技なのです。
日本でも2011年に日本小児科学会から 「複数ワクチンの同時接種を推奨する」との見解が出され、その後定期接種の対象ワクチンの増加とともに急速に普及しました。
子どもたちが受けられるワクチンの種類が世界標準に近づいた現在、間隔を空けて別個に接種を進めるのは非常に困難ですが、同時接種では無理ないスケジュールと少ない受診負担で早期に十分な免疫を得ることができます。
卵アレルギーがあるけれど受けられないワクチンは?
現在、卵アレルギーで問題になるのは鶏卵を用いて製造されるインフルエンザワクチンだけですが、ワクチンに混入する卵白アルブミンの量は極めて微量です。
卵の摂取でアレルギー反応を呈したことのあるお子さんは接種要注意者とされてはいますが、重篤なアナフィラクシーを起こした場合を除き、接種は可能です。もちろん、検査でアレルギー抗体が陽性に出ただけで接種を避ける必要はありません。
当クリニックでは、初年度2回は接種後に経過観察を行い、問題なければその後は普通に接種を行なっています。
未熟児で生まれたけれど、月齢通りに接種して大丈夫?
ワクチンの開始時期は、早産や低出生体重であっても、出生時からの合併症がないことを確認の上、一般乳児と同様に出生後の暦年齢を適用します。それにより接種による副反応の増加の心配はなく、むしろワクチンの対象疾患にかかった時に重症化する可能性の方が懸念されます。
なお、特に早く生まれたお子さん、何か合併症のあるお子さんについては、新生児期から経過を見ていただいている主治医の先生の指示に従ってください。
もちろん連絡を取り合って、病院で開始したワクチンの続きを、退院後に当クリニックで継続することも問題ありません。
接種後に熱が出たら、次から接種を控えた方が良い?
不活化ワクチン(ヒブワクチン、小児用肺炎球菌ワクチン、四種混合ワクチン、日本脳炎ワクチン、インフルエンザワクチン)では、接種当日から翌日にかけて、時として38度台以上の発熱を認めることがあります。(特に、小児用肺炎球菌ワクチンと関連した発熱が多いようです。)
統計的には、追加も含めて3~4回の接種で発熱の頻度はあまり変わらず、一度熱の出た人は次の機会からさらに出やすくなる、というわけでもありません。
発熱は想定内の有害事象で、それだけで心配することはなく、その後残った回数の接種を行うことについても支障ありません。
半日程度で下がることが多いので安静にして様子を見て、必要があれば解熱剤を使っても構いません。
もちろん、ワクチン以外の原因の発熱がたまたま重なることもありますので、乳児期早期のお子さんの高熱、熱が続いたり解熱剤で下げた熱がまた上昇したり、熱以外の症状を伴うような時には受診を考えてください。
ワクチンによる副反応が心配
接種が直接の原因となる副反応のうち、一時的発熱や局所の発赤・腫脹はよく見られますが、これらはワクチンの原理上想定される症状で、特に心配はありません。
以前は麻疹ワクチンの接種後に稀にアナフィラクシー反応を起こすことが報告され、鶏卵でウイルスを培養しているため、卵アレルギーとの関連が疑われた時期もありました。しかしこれは、ワクチンに含まれていたゼラチンの成分に対する反応であることがわかり、ゼラチンを含まないワクチンに切り替わってからほとんど見られなくなりました。
だいぶ前のこと、古い三種混合ワクチンの時代に、極めて稀ですが接種後に見られた脳障害が、精製度の低いワクチンの成分に対する自己免疫反応等が原因では、と疑われたことがあります。
しかしその後の調査で、接種した赤ちゃんと接種しなかった赤ちゃんの脳障害の発生率に差はないことがわかりました。
最近でも、マウスの脳を使って作製されていた日本脳炎ワクチンが、接種後に急性散在性脳炎(ADEM)を起こすのではと疑われ(70~200万接種に1回程度)、一時接種勧奨が中止されました。
この件についても、ワクチンの製造方法と、ワクチン接種から近接して発症したために因果関係を否定できなかったものの、子どものADEM自体が様々なウイルス感染後や原因不明で毎年一定数は発生しており、他のワクチンの接種後の発症も見られ、日本脳炎ワクチン接種に限っての有意な増加は見られず、勧奨中止後のADEMの減少も見られなかったことが判明しています。(現在はマウスの脳を使わない新しい方法で作られたワクチンで再開されています。)
1種類のワクチンの1回につき年間90万回(=出生数)、四種混合なら4回で360万回、ヒブや小児用肺炎球菌も含めて3種類のワクチンだけで1080万回もの接種が行われています。
それだけ多く使われるからこそ、偶然や紛れ込みと区別できないくらい稀なことで接種を中止してまでの対応や、多くの検証が行われており、自信を持ってワクチンは極めて安全性の高い医薬品と言えます!
「ワクチンが自閉症に関係するという説を聞いたことがある」、あるいは、「ワクチンに含まれる水銀化合物(チメロサール)が自閉症の原因とネット上にも書かれた記事がある」大丈夫でしょうか?
はい、心配ありません!
20年以上前の科学的根拠のない捏造された論文に端を発し、ワクチン犯人説がワクチンに不安を抱く人々の共感を集め、一人歩きして世界中に接種を控える動きが広まり、それが未だに尾を引いているためです。
ワクチンと自閉症に関する議論は、1998年にイギリスでウェイクフィールドという学者のMMRワクチンが自閉症に関係するという主張から始まりました。自閉症の増加傾向が注目を集めていた折から大きな反響を呼びましたが、その後のいくつもの大規模な調査で関連性を裏付ける結果は出ず、MMRワクチンと自閉症の関係はほぼ否定的となりました。
するとこのウェイクフィールドは問題はワクチン中のウイルスではなく、ワクチン液に含まれる水銀化合物であるチメロサールが自閉症の原因であると主張するようになりました。この主張は米国で反響を呼び、自ら自閉症の孫を持ちその原因がワクチンであると信じた上院議会議長が繰り返しワクチンと自閉症に関する公聴会を開き、それに乗じて集団訴訟が起こされるという事態になりました。
しかしその後のいくつもの研究でチメロサールと自閉症の関連性は見いだされず、チメロサール含有ワクチンの使用が中止されてからも自閉症が増え続けている現状も報告されました。
2004年に米国の公的機関IOM(The US Institute of Medicine )は最終的に、
「チメロサール含有ワクチンおよびMMRワクチンはいずれも自閉症を起こさない。自閉症とチメロサール含有ワクチンおよびMMRワクチンに関連性があるとう仮説は、これを支持するデータはなく、結局単なる仮説にすぎない。」
という結論を公表しました。
また最初にウェイクフィールドの論文を掲載したLancet誌(世界で最も権威のある医学雑誌)もその論文を掲載したのは誤りであったと声明を出しました。
さらに世界保健機構(WHO)のワクチン安全性委員会も、ワクチン中のチメロサールと子どもの自閉症との因果関係を示す決定的証拠はないと結論づけています。
”自閉症「ワクチン犯人説」、英医学誌が撤回”(読売新聞社2010年2月5日の記事から)
権威ある英医学誌「ランセット」は、はしか、おたふくかぜ、風疹の新三種混合ワクチン(MMR)と自閉症を関連づけた1998年の有名な論文を撤回すると発表した。
論文自体はワクチンが自閉症の原因だと断定していないが、著者のアンドリュー・ウェイクフィールド医師が記者会見で関連を指摘、ワクチン「犯人説」が独り歩きして、接種を控える動きが世界に広がった。
因果関係はその後の研究で否定され、共著者13人のうち10人は2004年に論文の結論を取り下げている。
英医療当局が1月末、論文が対象とした自閉症児らの中に、予防接種の副作用被害の訴訟当事者が含まれていたことなど、数々の不正や倫理違反を認定した。
このため、ランセット編集部は「誤りが明確になった」と撤回を決めた。
ワクチンより、自然にかかった方が、強い免疫がつくのでは?
自然感染の方が強い免疫がつくのは確かですが、それだけ強い感染が引き起こされたという証で、当然それに応じて様々な合併症も発生します。運が悪ければ、亡くなることさえもあります。(→詳しくは「予防接種で防げる病気をよく知ろう!」)
そのような自然感染による様々なリスクをなくすべく開発されたワクチン接種の方が有利なのは言うまでもありません。
ワクチンは子どもの健康を守るためのシートベルトです!
副反応の可能性をもってワクチンは危険なものであると主張する人もいますが、あなたはシートベルトがからまって怪我をしたら「こんな危険なものは使うべきではない」と主張し、シートベルトをはずして運転をしますか? 極めてまれなリスクを心配するより、交通事故から身を守る効果の検証されたシートベルトを着用する方がよいのは確かです。子どもたちの健康を守るために、ぜひ受けられるワクチンは全て受けてください!